Welcome to Spain! スペインへようこそ

昨年12月6日のことだ。18時すぎマドリッドのホテルを出る。日が長いスペインでもさすがに冬至が近く、すでに夜。メトロ3号線のラヴァピエス駅からスペイン広場駅に向かい1号線に乗り換えると、ホームには黒黄色の大男たちが缶ビールが詰まったビニール袋を持ちながらビールを飲んでいる。一方レアル・マドリッドファンはみなしらふのようだ。スペインでは公共のスペースでの飲酒は禁止だが、私もビニール袋からビールを取り出しサッカーファンで満員の車内で飲みはじめる。車内は静かで少し残念。ドイツでは必ず数人のグループがチャントを歌いだすのが通例で、電車のなかで盛り上がるからだ。

 

サンティアゴ・ベルナベウ駅を降り立つと大きな通りの向かい側にスタジアムがそびえ立っている。デカイのだが、前の年に驚いたバルサ・カンプノウの巨大さほどではない。こちらのほうが町のド真ん中にあり、東京で言えば東京ドームや神宮球場の立地と似ている。キックオフまで時間があるので、メインスタンド入り口前で観客たちを観察しなながらビールを投入する。残念ながら欧州のほとんどの国ではサッカースタジアムで酒が禁止されているのだ。酒が飲めて食事もまあまあなのはドイツくらいか。。。

 

6本あったビール缶を飲み干し、さっそくメインスタンド10番ゲートからスタジアムイン。セキュリティーチェックは甘かった。熱狂的なファンが入らないメインスタンドだからか。しかし余裕で(試合を盛り上げるために時には必要な)花火や火薬を持ち込めたし、私がテロリストだったらと考えると恐い。簡単にスタジアム内の設備を見回る。カンプノウはもっと古いがこちらも真新しいものは無し。ホットドックとバーガースタンドがあるだけで内部は閑散としている。2部の最小クラブ、レウスやバルセロナのエスパニョール新スタジアムも秋に観戦する機会があったが、スペインのスタジアム内はどこも似た感じだ。もっとクラブカラーを前面に出したり、ファンのプロジェクトのプレゼンがあったりすれば活気付くのに。

 

私の席は何層ある三段目で高さ的には中段。頭上の屋根には暖房がついており、ありがたい。マドリッドの12月は東京より以上に寒い。真後ろはガラス張りのVIP席、それぞれテレビ画面が天井から吊るされている。旧式のVIP席仕様で外に出ることができない。サンティアゴ・ベルナベウも現代様式に改築する必要性が理解できる。

それにしてもピッチの見やすさは文句のつけようがない。やはりテレビカメラを通してではなく、直接自分の目で世界最高峰の試合が見れる喜びが沸いてくる。150€もするチャンピオンズリーグチケット、4星ホテル二泊に航空券をボーナスとしてプレゼントしてくれた会社のボスに感謝しなくては。

 

試合がはじまる。調子の良し悪しという難点はあるがBVBも欧州トップ10に数えて良いだろう。いつも3部ブンデスリーガを見ている者には、なんとも贅沢なラインアップ。スピードや技術レベルの違いに驚嘆する。3部の選手との差はそんなに大きいとは私は思っていないが、その少しの差がチーム全体になった時に大きくでるのはないか。

前半?分BVBゴール前で一瞬ディフェンス陣が隙間を作ってしまった。そこにロナルドが入り込み、絶好のパスを受ける。その瞬間、「決まった」と思った。その0,5秒後ボールはネットを揺らしていた。これが生で見る醍醐味だ。全体のフォーメーション、選手の連動、いわゆるスペースを理解するにはスタジアムで見るのが一番。

それはアメフトが特にそうで、ディフェンスバックの動きを観察するために川崎球場によく足を運んだものだ。私がまだ高校大学生のころで恐縮だが。。

 

レアルにとっては消化試合であったため観客数は??人ほど。BVBもグループリーグ突破をすでに逃していたため熱狂度の高い試合は最初から期待できなかったが。ゴール裏で真っ白のコートに身を包んだマドリッドウルトラスは一生懸命チャントを歌い続けていた。しかし彼らの数はスタジアム全体の5~10パーセント、他の9割はまったく声を出さない。笑うことも、怒って叫ぶこともない。まるで映画館のなかにいるようだ。ひたすらポップコーンやホットドックを食べている。私の右となりにいた20代のカップル、その彼氏はスーパースターのプレーに時々「Wow!」を連発していたが、私の通う独3部スタジアムではあり得ない光景である。我がスタジアムだったら彼女と試合の流れを分析したり、自チーム選手のミスに怒ったりするものだ。

 

ここに来ている90パーセントは私の定義する狭義の意でのサッカーファンではない。ディズニーランドに来ている商業施設のカスタマーに他ならない。

クラシコやアトレティコとのダービーは比較にならないほど熱狂度があるであろうし、この試合を見ただけで判断を下すわけには行かないのだが、それにしてもスタジアムの雰囲気は酷い。昨年行ったバルサ同様だ。

ここで私の求めるサッカーを見ることは出来なかった。(両チームのサポーターが熱くチャントを歌い、選手もそれを背に受けスタジアム全体がひとつになる)

アイドル(スター選手)とその追っかけ(ファン?)でしかない。

 

ハーフタイムに入り、トイレに向かう。簡単に隠して持ち込めたウォッカを隠れて飲み干すために。大便用は全てうまっていたが、すぐにひとつが開いた。出てきたのは二人の若い男たち。私が鼻を指差しながら、「アレか」と聞くと「Welcome to Spain!」と快答してきた。私も禁止されているドリンクを飲み干し、トイレを出るとその二人が私を待ち受けていた。「おまえもやるか?」と親切な申し出を受けたが、「私はもう卒業したから、でもありがとう」と脳内の誘惑にNoと答えた。その一人はスペイン在住のカナダ人で、スペインのサッカーや観光地化が行き過ぎたバルセロナなどについて談笑し、

 

 

ラヴァピエス駅からホテルまで目と鼻の先。平日の深夜0時すぎでも人通りが多い。ケパブ屋で夕食と決めていたので、そのとなりの売店で缶ビールを買い、通りで立ち飲みをしていると北アフリカ系の若い男が話しかけてきた。ドラックディーラーらしく何か欲しいか尋ねてきた。「もう俺は卒業したからいらない」と伝えると、私に近づき踊り始めるではないか。「スペインではこうやって踊るんだ」と相撲をするかのように接触してくるので私から離れるように言うと、「あばよ!」とさっさとタクシーに乗り去って行った。気持ち悪いヤツだと思いながらケパブを注文した時だ。財布がない。ジャンパーのポケットが開いている。この年になって初めて財布を盗まれた。不幸中の幸い。現金少々と免許書、健康保険書しか入っていなかったが。おそらく通りでビールを飲んでいる観光客だと睨まれたに違いない。やはり郷に入れば郷に従え、おきてを破った

 

この日本人を会長に!

2017年10月30日月曜日

私はバルセロナのスペイン広場から地下鉄8号線に乗りアルメダ駅へ向かった。乗車時間は15分ほど、駅を降りるとそこは倉庫街。まったく方向感覚がなく、犬の散歩をしている老夫婦にエスパニョールのスタジアムへの道を尋ねる。久しぶりのスペイン、どうも言葉が出てこない。彼らに言われた通りまっすぐ倉庫街を歩くと交差点にエスパニョールファンパブらしきバーがある。すると私の後ろを歩いていたその老夫婦がここを左に行けばショッピングモールにたどり着き、その右隣だ、と親切に教えてくれた。

 

試合開始二時間前なのに私の他、誰一人サッカーファンの姿がないので心配だったが駅から15分ほどで着いた。真新しい巨大ショッピングモールと青色の光で眩しい新スタジアムが隣接して並んでいる。ここは日本のJリーグクラブが目指している新スタジアムモデルの典型だ。ドイツには存在しないので勉強になる。ドイツではこの手の巨大商業施設がスタジアム横にあることをファンが嫌うし、もしあったとしたら試合前後にモールがビール瓶だらけで荒らされてしまい共存は難しい。

 

さっそくスタジアムを外から撮影しながら周ってみると、すでに多くのベティス・セビーヤファンがたむろしている。若い男二人に写真を撮りたいと伝えると快諾してくれた。やはりラテンの国はノリが良い。どこから来たのか?尋ねられたので「ベルリンから」と伝えると「じゃあ教えてくれ。ドイツ語で女のケツに入れることを何て言うんだ?」まったくくだらない質問だが、「イン デン アーシュ フィッケン」と教えると何度も発音を聞いてくる。誰かドイツ語がわかる人がいたら恥かしいので「またあとで」と別れると「もちろんベティス応援しにきたんだろ」となかば強制するので「もちろん」と答えておいた。

 

次にこちらもノリが良さそうな50歳前後であろうグループの写真を撮る。するとまたしても「あとでアウェー側スタンドで会おう」と言われた。

 

まだ会場まで時間があるので、となりのショッピングモールを散策する。すると遠くから心地よくチャントが聞こえてくるので、音源を見つけにに歩く。シネマコンプレックスの向かいの角にセルベセリア(居酒屋の意)の店内と周辺が緑色で溢れているではないか。小腹がすいているので店内に入りポテトとビールを注文。あまりの混雑に店員たちが混乱しているようだ。ひとりビールを飲んでいると窓際の子供連れのオヤジと目があう。すると私にウウィンクしてきた。まったく調子がいいなあ、スペイン人は、と思いながら店を出ようとするとその巨漢オヤジが話しかけてきて私とハグするとほっぺにキスをしてきた。「おまえもベティスファンだろう」と言うのでそうだと答えるしかない。

 

まったくオヤジの汗っぽいキスは勘弁願いたかったが、悪い気はしない。バカにされるより、温かく受け入れられるほうが良い。

まだチケットを購入せねばならず、早めにチケット売り場に行くとやはりかなり並んでいる。普通ドイツでは現地でアウェーチケットが手に入りづらいのだが、ここでは問題なくゲットできた。アウェー側入り口はそんなに並んでいないが、なかなか前に進まない。ドイツ同様、アウェーファンのセキュリティーチェックは厳重に行われるためだ。数人のベティスファンが、まるで犯罪者のように壁に向けさせられ警察のボディーチェックを受けている。警察による過激派ウルトラスの弾圧は、ここでも厳しそうだ。

 

なんとか試合開始直前にゲートを通過し、急な斜面のスタンドを登る。すると先ほど写真を撮ったおじさんが「おうおまえも来たが。俺のとなりに来い」と誘われたので一緒に観戦する。私の前の若い男はすでに上半身裸で我われ後方の連中にもっと声を出せと要求してくる。比較的簡単な歌詞なので、私も自慢の大声でチャントを歌う。言語は違ってもスペインのチャントと同じ曲がドイツでも歌われているのでリズムはすぐ覚える。歌詞がわからない部分はとなりのおじさんが教えてくれたので前半45分ほぼ完唱した。しかし良い雰囲気である。ベティスのほうがFCセビーヤファンより熱狂的だ、と昔スペイン人から聞いた通り。もう私もすっかりベティスファンになりはじめていた。

ハーフタイムになり、なぜか多くのセキュリティーがアウェー席の一番前を占拠し、なにやらゲストファンに着席よう強制しはじめる。我われは何の問題も起こしていないのに。すると周囲はざわつきはじめ、「40€も高いチケット払ってるんだ。何の文句があるんだ」と怒りの声が聞こえてきた。私も不条理に感じたので「そうやって不必要な弾圧して熱狂的なファンがスタジアムに来れなくなってるんだぞ。あんたらにサッカー文化の何がわかるんだ! 」とアルコールの勢いもあり大声で発するとベティスファンたちがみな私の方を向いて拍手しはじめる。「Ese japones al presidente!」「この日本人を会長に」と喝采が沸き起こる。20秒くらいであろうかこの即興チャントが響き渡り、みな私をまるで英雄かの眼差しで見ていた。なんとも恥かしかった。まったくスペイン人は調子が良すぎると実感したが、あとになってうれしくもなった。